プラスチック材料は、電気・電子分野をはじめとする多くの産業用途において、電気絶縁材料として重要な役割を担っています。これらの用途では、機械特性や成形性だけでなく、耐熱性および長期使用時の熱劣化挙動が製品寿命や安全性を大きく左右します。
本稿では、JIS C 4003(電気絶縁材料の耐熱区分)に基づき、代表的なプラスチック絶縁材料を耐熱クラス別に整理し、材料選定の実務的視点から解説します。
Contents
プラスチック絶縁材料における耐熱性とは
耐熱性とは、材料が一定温度環境下で所定の機械的・電気的性能を長期間維持できる能力を指します。電気絶縁材料では特に、絶縁破壊、機械強度の低下、熱劣化によるクラック・炭化などが問題となるため、最高許容温度に基づくクラス分類が採用されています。
絶縁材料の耐熱区分(JIS C 4003)概要
JIS C 4003では、電気絶縁材料を最高許容温度に応じて複数の耐熱クラスに分類しています。以下では、画像中の表に記載された代表例をクラス別に整理します。
耐熱クラス別 プラスチック絶縁材料一覧(代表例)
最高許容温度:50 ℃
- ポリエチレン(高圧法)
低温環境向けであり、高温用途には不向きな領域です。
最高許容温度:70 ℃
- 塩化ビニル(硬質)樹脂
- ポリスチレン
- メタクリル酸メチル樹脂(PMMA)
- エボナイト
汎用樹脂が中心で、軽負荷・低温用途向けの温度帯です。
耐熱クラス Y(90 ℃)
- エポキシ樹脂(常温硬化型・低耐熱)
- 塩化ビニリデン樹脂
- AS樹脂
- ABS樹脂
- アクリル樹脂(耐熱)
家電・民生用途の内部部材などで広く使用される領域です。
耐熱クラス A(105 ℃)
- 酢酸繊維素
- セルロースアセテートブチレート
- 木綿紙フェノールワニス含浸材
比較的歴史のある絶縁材料が中心となる温度クラスです。
耐熱クラス E(120 ℃)
- エポキシ樹脂
- ポリカーボネート
- ポリウレタン
- ネオプレンゴム
- アクリルニトリルゴム
- 紙充填積層板
- ブタジエンゴム
ポリカーボネート(PC)も含まれ、構造部材と絶縁性能を両立する用途で検討されやすいクラスです。
耐熱クラス B(130 ℃)
- ベークライト(フェノール紙基材)
- クロロプレン
- エポキシ樹脂
- ポリエステル(ガラスFRP)
- メラミン樹脂
- ジアリルフタレート樹脂(有機材基材)
モーター・電装部品など、産業用途で多い温度クラスです。
耐熱クラス F(155 ℃)
- ポリエステル(ガラスFRP)
- ポリフェニレンサルファイド(PPS)など耐熱性樹脂
高温環境下でも安定した絶縁性能が求められる用途に適用されます。
耐熱クラス H(180 ℃)
- ジアリルフタレート樹脂(無機質基材充填ガラスクロス)
- メラミン(耐熱)樹脂
- マイカ
- 石綿
- ガラス繊維積層品
- フェノール樹脂(石綿充填)
- シリコンゴム
- エポキシ樹脂積層板
重電・産業機器分野で用いられる高耐熱クラスです。
耐熱クラス C(180 ℃以上)
- シリコン樹脂
- マイカ
- 磁器
- 石綿およびガラス
- セメント結合品
- ポリイミド
- テフロン(PTFE)
- マイカレックス
最上位の耐熱クラスであり、過酷な熱環境下で使用されます。
材料選定時の実務的ポイント
耐熱クラスはあくまで長期使用を前提とした目安であり、次の観点を併せて検討することが重要です。
- 実使用温度と安全マージン(ピーク温度の有無)
- 電気特性(誘電率・耐電圧・絶縁破壊特性)
- 機械特性とのバランス(強度・クリープ・寸法安定性)
- 成形方法・コスト・供給安定性
おわりに
電気絶縁用途におけるプラスチック材料の選定では、耐熱クラスの正しい理解が製品信頼性の基盤となります。JIS C 4003に基づく耐熱分類は、材料選定の第一歩として有効な指標です。
樹脂プラスチック材料環境協会では、今後も材料物性・規格・実務応用を結びつけた情報発信を通じて、設計・開発・調達の現場を支援していきます。